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今月のこの一冊 ことばの学校 厳選の290冊から1冊を紹介します!
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『きょうとあしたのさかいめ』
最上一平/作 渡辺有一/絵
1,296円 2000年初版 -
年中行事、家族
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しみじみ
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ていねいな絵日記のようで親しみやすい
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大みそ日、みのりさん家族の一日を描いたお話です。
昼はお母さんとおせち料理の買い出しに行き、夜は帰ってきたお父さんがおもちをついてくれました。おばあちゃんが作ったとしこしそばを食べて、みのりさんは、はじめて夜中まで起きて除夜の鐘を聴くのでした。 -
題名に「行事の由来えほん」とあるように、ところどころでおばあちゃんが由来を語ってくれます。
「おそばは細くて長いだろ」「おそばのように長生きできるように」「幸せが長く続きますように」と教えてくれるのです。
除夜の鐘を108回鳴らすのは、人間の108つの煩悩(ぼんのう=心身を悩ます欲望)を1年の終わりに洗い清めるためと教えてくれます。物語の中でさりげなく、語られるのですっと心に入ってきます。
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『おれさまはようかいやで』
あんずゆき/作 あおきひろえ/絵
1,620円 2015年初版 -
友だち
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わくわく
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わかりやすい ポップ 緑色をたくさんつかう
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自分のことを「おれさま」と言う関西弁のようかい。地上に落っこちてきてしまった流れ星を見つけて「あやしいやつ」だと言います。「あやしいのは おれさまだけで じゅうぶんや」と流れ星を非難します。「たすけてー!」「おねがーい!」と困っている流れ星に頼られるようかいは、今まで誰かを助けたこともなければお願いされたこともありませんでした。ようかいは、なれないようすで、流れ星を夜空へ戻すために力を貸すのでした。
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流れ星といっしょにいるうちに、ようかいの中で流れ星の存在が大きくなっていきます。
それまで一人ぼっちで生きてきたようかいですが、流れ星と別れた後、別れを惜しんでいる自分につっこみを入れるようすがユーモラスでいながら切ないです。
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『へっこきよめさま』
令丈ヒロ子/作 おくはらゆめ/絵
1,296円 2012年初版 -
ユーモア
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笑えてくる
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ひょうきん、だいたんな筆致
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昔話です。とついできたおよめさんは、やさしくて、働きもの。
家の人たちはいいおよめさんが来てくれたと喜んでいました。
ある日のことです。およめさんの顔がまっさおなことに気づいたお母さん。
どうしたのかと聞いてみると、おならをがまんしていたそうなのです。お母さんはがまんすることはないとおよめさんに言ってあげると、およめさんはがまんしていたおならをします。そのおならがとても大きくて、お母さんがおならで、家の外にとばされてしまうほどでした。こんなおならをするおよめさんは困ると、家を追い出されてしまうおよめさんでした。家を出たおよめさんは、おならの力で木の実を落としたり、舟を向こう岸まで送ったりと人助けをしていきます。感心した家の人たちは、およめさんを迎えにいくのでした。 -
昔話独特のほのぼのした雰囲気です。ユーモアでおよめにとついだ先の苦労をはねのけようとするエネルギーにあふれた作品です。
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『ねむくまのうた』
戸田 和代/作 たかすかずみ/絵
1,404円 2010年初版 -
通い合うこころ
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おだやかな気持ち
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パステル やさしい
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田舎の駅のその先にぽつんとある一軒家。ここに一人で住んでいるのは、はなおばあさん。でも、さびしくはありません。家にはちょくちょくお客さんがやってきます。はなさんのうちにやってきてお昼寝をしてゆくのは「ねむくま」です。スープを飲みに来るのは「はらぺこうさぎ」。みどり色の目の「なぜなぜねずみ」そして、まごの「こむぎちゃん」。みんながそろうとこもりうたの大合唱です。
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冬になってしまうと雪に閉ざされて一軒家には誰もやって来ません。しかし、おばあさん、目を閉じるとみんなと歌った子守り歌が聴こえてきてさびしくはないのでした。眠る前に読みたいゆったりとした作品です。
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『くいしんぼうのはなこさん』
石井桃子/作 中谷千代子/絵
1,188円 1965年初版 -
わがままはよくない!
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ユーモラス、どきどき
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筆致が見える。あたたかさぬくもりを感じる。
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生まれたときから食べるものは好き嫌いばかり、わがままのし放題で育った子牛のはなこさん。子牛がたくさん集まる牧場に入ったら、性格は直るのかと飼い主さんは思っていたら、子牛たちの中でもいばってばかりいます。しかし、そんなわがままが原因で、ある日はなこさんに災難が訪れるのでした。はなこさんは、他のみんなの分も考えず、おいもと、かぼちゃをひとやま食べてしまいます。体がバルーンのようになってしまい治療のために注射をされるのです。それからは性格が大人しくなり、子牛たちとも仲良くするようになったというお話しです。
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のんびりとした牧場の雰囲気とユーモラスな子牛の表情をふんわりして、あたたかな絵で表現しています。絵を見ていると、はなこさんのわがままも憎めなくなります。物語は「こんなわがままのし放題ができたらいいなあ」という一種の幻想を見せてくれながら、最後にはしっかりこらしめられるという昔話のような伸びやかさと、しめくくりに長く愛されてきた理由があるでしょう。
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『かもとりごんべい』
令丈ヒロ子/作 長谷川義史/絵
1,296円 2012年初版 -
イマジネーション
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笑い出したくなる
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顔が大きい 子どもが描いたよう
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ごんべえさんは、カモを一度にたくさんとろうと豆にお酒をしみこませてカモに食べさせます。酔っぱらったカモ99羽になわをかけたところで、そのうちの一羽が目覚めてしまいます。一羽のカモは騒ぎだし、他のカモも目を覚まして逃げ出そうと羽をはばたかせたので、さあたいへん。ごんべえさんはカモに引っぱられて空高く、つれていかれてしまうのでした。
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空高く飛んだごんべえさんに、その後も次から次に普通はありえないことが起こります。昔から語り継がれたお話が親しみやすい絵とともに語られています。関西弁なところも親しみやすい雰囲気です。空を飛んでみたいという昔の人の思いが表れた小品です。
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『小学五年生』
重松清/作 唐仁原教久/絵
1,512円 2007年初版 -
友情・家族・成長
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胸がいっぱいになる
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素朴
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17編の短編小説集です。主人公は小学五年生の男の子たち。クラスメイトの転校や近しい人の死、ほのかな恋心、ケンカと友情。「おとな」ではないが「子ども」でもない時期を四季を通して描く心を揺さぶる物語です。
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中学入試に引っぱりだこの作品です。大人向けの本格的な小説なので、構成やテーマがしっかりしていて読み応えがあります。主人公が小学生なので子どもにも感情移入がしやすく、中学入試では設問を作って構成やテーマの理解度が聞かれるわけです。登場人物の行動や言動、情景描写などから気持ちの変化をくみ取って読む必要がある場面の宝庫でもあります。
[出題校] 2016年 高田中学校 2015年 暁星国際中学校 西武台新座中学校 相洋中学校
安田学園中学校2014年 世田谷学園中学校 文華女子中学校 2013年 東京農業大学第一高等学校中等部 札幌光星中学校
麗澤中学校2012年 春日部共栄中学校 佼成学園中学校 志學館中等部
法政大学第二中学校2011年 金城学院中学校 中央大学附属中学校 2010年 頌栄女子学院中学校 2009年 慶應義塾普通部 函館ラ・サール中学校 2008年 神奈川大学附属中学校 恵泉女学園中学校
聖光学院中学校 成城学園中学校 城北中学校
山脇学園中学校 立命館慶祥中学校
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『ずるやすみにかんぱい!』
宮川ひろ/作 小泉るみ子/絵
童心社 1100円 2009年初版 -
思いやり 自然にふれる
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山に行ってリフレッシュしたい!
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顔の表情が豊か
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学校でいじわるされている雄介が「ずるやすみ」をして、リフレッシュするためにお父さんと山の見える町に出かけます。雄介は自然にふれ、人のあたたかみにふれて元気を取り戻します。
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雄介は、山の見える町で会った人たちからうち明け話を聞くことになります。実は自分も人間関係になやんで「ずるやすみ」をしたことがあるという話です。雄介は話を聞くうちに、うちあけ話をする人に励ましの言葉をかけられるほど心に余裕が生まれます。雄介が自分たちで作った川原の露天風呂で大きな声をあげるシーンは読み手も元気をもらえます。
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『とけいのほん①』
まついのりこ/作・絵
972円 1973年初版 -
時計の見方
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なるほど!
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余白を使ってシンプル
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ちびとのっぽは、時計の短針と長針です。二人が作る色んな時間を、みんなが「なんじ」か考えます。
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時計の学習は、学校では小学校1・2年生ごろ行います。中には3歳くらいになって、数を数えることを覚えるのと同時に、時計に興味を持つお子さんもいます。この絵本は夢のあるお話と絵に乗せて、時計の見方を覚えることができるしかけです。お子さんが時計に興味が出てきたら、手に取ってみてください。ご家庭にデジタル時計しかなければ、ぜひアナログ時計を置いてみてください。
時計は時間経過を円に置き換えて認識する道具ですね。こういった置き換えの思考は習慣が物を言います。
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『まいごになったぞう』
寺村輝夫/作 村上勉/絵
1,080円 1989年初版 -
純真・信頼・愛
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渡る世間に鬼はなし
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つぶらな瞳
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ゾウの赤ちゃんが迷子になって泣いています。キリン、カバ、ワニ、ライオンがそれぞれ子ゾウを心配して声をかけても、ただ「あばば うぶー」と子ゾウは言うばかり……
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もちろん、最後には母さんゾウの元へ帰るのですが、それまで子ゾウは誰に会っても「あばば うぶー」だけで通します。
カバは言います。「ワニに食べられちゃうよ。」そんなワニに会うと、今度はワニが「ライオンに食べられちゃうよ。」と心配して声をかけます。
ライオンでも、子ゾウのことが、かわいくなって食べることはありません。
それぞれの動物たちは、お互い立場は違い仲良くないのかもしれないけれど、赤ちゃんゾウに対する愛はみんな持っているのです。
世界に対しての信頼感、肯定感を感じる大らかなゆったりした作品です。
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『吾輩は猫である(上)』
夏目漱石/作 村上豊/絵
724円 1905年初版 -
ユーモア・風刺
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おかしい
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水彩・淡い・まるい
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くしゃみ先生のうちに飼われる名もない猫が、先生とそれを取り巻く人間たちを観察して、人間というものの愚かさを風刺して批判します。
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作品発表から100年を過ぎた今、ふたたび新聞連載されているのが、この小説です。長い小説ですが、その後の漱石の作品に見られる深刻な人間関係を扱った作風ではなく、ひょうひょうとしてユーモアがきいた作品です。たくさんの小さなエピソードを寄せ集めたような内容です。くしゃみ先生は、夏目漱石自身がモデルです。飼い猫からの視点を借りて、書き手自身が自分に批判を加える書き方なのです。猫の調子はこんな感じです。
「吾輩は人間と同居して彼らを観察すればするほど、彼らはわがままなものだと断言せざるをえないようになった。」
「どうしても我ら猫族が親子の愛をまったくして美しい家族生活をするには人間と戦ってこれをそう滅せねば……」
「いくら人間だって、そういつまでも栄えることもあるまい。まあ気を長く猫の時節を待つがよかろう。」
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『さくら子のたんじょう日』
宮川ひろ/作 こみねゆら/絵
1,300円 2004年初版 -
家族・アイデンティティ・感謝
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じーんとする
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お人形のよう
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さくら子はお母さんといっしょに自分の名前の由来になったさくらの木を訪ねます。その木は栗の大木が折れて、その先端からさくらの木が自然についだみたいにはえている木でした。この木は、くりの木がさくらの子を身ごもったような様子なので『みごも栗』と呼ばれていました。お母さんは子どもをさずかり、みごもるようにこの木にお願いしたのだそうです。
こうしてお母さんがお願いしてさずかったのがさくら子なのです。そんなさくら子には小さいときから自分の出生について気になっていることがありました。そのことをお母さんに聞いてみようと思いながらなかなか聞くことができないまま小学6年生になりました。さくら子は自分から『みごも栗』を見に行こうとお母さんを誘います。そうして、花の下でおべんとうを二人で食べ終わるとお母さんは打ち明け話を始めるのでした。 -
自分とはいったい何なんだろうという思春期の自意識の芽生えをえがき、生まれてきたことに感謝する気持ちがあふれる作品です。